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広島高等裁判所岡山支部 昭和31年(ネ)47号 判決 1957年3月22日

控訴人 高田節郎

被控訴人 高智元義

主文

本件控訴を棄却する。

原判決を左の如く変更する。

岡山簡易裁判所昭和二十八年(ロ)第二九五号約束手形金請求事件の仮執行宣言附支払命令はこれを認可する。

訴訟費用は第一、二審共控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張と立証は、控訴代理人が乙第二号証を提出し、原審における被控訴人本人尋問の結果を援用し被控訴代理人が、乙第二号証の成立は不知、と述べたほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

控訴人が被控訴人主張の約束手形を振り出したことは当事者間に争がなく、控訴人の抗弁がその理由のないことについては原判決の理由を引用する。そうして乙第二号証についてはその成立について証拠がないのみならず、かりに成立が認められたとしても、これによつて控訴人の抗弁事実を認める証拠となし難い。

被控訴人が前示手形を訴外岡山県商工信用組合に取立委任をし、満期に支払場所に呈示して支払を求め拒絶されたことは当事者間に争がなく、また後藤が原告に対する本件乾物代金債務の支払をしていないことは、原審証人後藤登(第一、二回)の証言によつて明らかである。

されば控訴人に対し前示約束手形金六万七千円およびこれに対する満期の翌日たる昭和二十八年九月二十三日以降完済まで手形法所定年六分の割合による法定利息金の支払を求める被控訴人の本訴請求は理由があり、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきである。

しかし本訴は、被控訴人の控訴人に対する約束手形金の支払命令申立によつてはじまり、控訴人の仮執行宣言附支払命令に対する異議申立により通常訴訟に移行したものであるから、この一体をなす手続中に二重の債務名義が重複することは許されない。前示のように被控訴人の本訴請求が認容されるときは被控訴人は仮執行宣言附支払命令と給付判決との重複した債務名義を有することとなり、かような結果となることは執行正本の複数化することを極力避けて債務者の保護を図ろうとする民事訴訟法第五百二十三条の精神に反するものであつて、同法第七百四十五条第二項もまたこれと同じ配慮にでたものと解するのを相当とする。のみならず、同法第百九十八条の適用を考えるときは、本件の如き場合においては仮執行宣言附支払命令の認可変更取消等を本案判決で言渡してこの債務名義の結末をつけるべきである。したがつて当裁判所は職権により原判決を変更すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅芳郎 高橋雄一 菅納新太郎)

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